Ⅰ 一般組合はどのようにとらえられてきたのか
1、一般組合とは、どのような組織のことか
(1)労働組合組織形態論とその変化(図表1)
①クラフトユニオン
②産業別組合
その変種としての雇用別組合と材料別組合
③コールの「一般組合=精算所」論(1913年)
◇“半熟練労働者はクラフトユニオンへ”(コールの立場は産業別組合の推奨)
◇一般組合を三大組織化方法に数えず、その後、“不熟練労働者の組合”に分類
◇1950年代になって初めて“三大類型の一つ”とした
④性別組合など他の分類は(存在自体が)消滅
(2)一般組合(general union)の3つの型(図表2)
①「階級組合」型―労働者階級を丸ごと組織する志向
②「普通の労働者」型―「上層の労働者」の組織(クラフトユニオン)などが保守的で閉鎖的な場合に「普通の労働者」を組織する組合
③「残余」型―主要な組織形態(産業別組合など)の外側にいる「その他の労働者」の組織
(3)各国における労働組合の主要な組織形態(図表3)
①大陸ヨーロッパ型(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)
②イギリス型(イギリス、アイルランド、デンマーク、オーストラリア)
③アメリカ型
④日本型
(⑤ノルウェー型を数えることもできる)
2、「一般組合=特殊」論の背景としての「産業別組合」論
(1)日本では、ナショナルセンターの構成組織は「産業別組合」
①全国組合は「産業別」組織であることを前提とした用語法
◇「単産」=単位産業別労働組合
◇「産別」=産業別労働組合
②産別会議、総同盟の組織構成
◇産別会議―「全国的・地方的産業別労働組合またはその準備会」のみに限定
◇総同盟―「産業別、職業別の労働組合を以て組織す」
③連合も全労連も、規約に一般組合は出てこない
◇連合―「『連合の進路』に賛同し」た「産業別全国組織」で構成
◇全労連―「産業別全国組合および都道府県労働組合で構成」
④同盟だけが「一般組合」を単位組織に数える規約だった
◇同盟の組織構成は、「産業別全国組織」を単位としたが、「職業別全国組織および一般組合の全国組織は、産別組織とみなす」(規約第4条)
(2)イギリスにおける「合同機械労組=産業別組合」論
①イギリスでは、合同機械労組は「産業別組合」とは見なされない場合がほとんど
②合同機械労組を「産業別組合」と見なそうとしたコールやジェームズ・ジェフェリーズの研究
③それへの批判
◇機械工業では、第一次大戦の前後に一般組合の労働者組合(WU)が半熟練労働者を先行的に組織した(ハイマン)(図表4)
◇合同機械労組(AEU<ASEの後継組織>)が規約上、半熟練労働者へ開放したのはやっと1926年のことで、しかも、ほとんどの支部がこれに抵抗した。実際に半熟練労働者に働きかけ始めるのは1930年代後半以降になってのこと
◇「産業別組合」になったと言われる根拠になったAEUの半熟練部会の組合員数が増えたのは、長い戦後不況の下で組合費が安い半熟練のセクションへ多くの熟練労働者が移っただけであった(クレイドン)
④合同機械労組(実態としてのクラフトユニオン)は、大陸欧州の産業別組合(熟練労働者を組織しているに過ぎないが、“これからそうなる”という意味での産業別組合)の実態とほぼ同じだった、という見方(ホブズボウム)もある
⑤合同機械労組はクラフトユニオンでもあり、産業別組合でもあり、多様な性格を持っているとする見方(ターナー)もある
(3)日本における「合同機械労組=産業別組合」論
①栗田健の場合―論理=問題史、「産業別組合」、「産業別協約体制」=最終段階説
②熊沢誠の場合―史実の究明、AEU=「ほぼ産業別組合」論(1940年代)
③両者とも、ジェームズ・ジェフエリーズの研究を重視している
(4)赤色労働組合インターナショナル(プロフインテルン)の「産業別組合」論
①「純然たる職業別組織から産業別組織へ移行しなければならない」「関連する諸職業別労働組合の一つの労働組合への合同は革命的方法によっておこなわれなければならない」「工場や経営の労働組合に、そののち地域の会議、地方の会議、一国全体の会議に提起する」という戦略(「プロフィンテルン行動綱領」第46項)
②「産業別組織化の原則[とは]…ある一つの企業のすべての労働者と職員は一つの労働組合の組合員とならなければならない[ことをいう]」。「『一つの企業に一つの労働組合を』と要約してもよい」(ロゾフスキー「プロフィンテルン行動綱領」解説)
③「一つの企業の全就業者を包括した工場評議会が最も自然的で最良の労働組合単位である。こうした工場評議会から有機的に産業別労働組合が発展してくる。このように産業別労働組合への移行は工場評議会がなければできない」(ロゾフスキー、同前)
④プロフインテルン創立時の1919年頃では、イギリスの一般組合が最終的に構造化する1920年代末を見通せていない
3、戦後日本における「一般組合=特殊」論
(1)『労働事典』などに見る一般組合像―「過渡期」にのみ、「製造工業以外」の産業で、「イギリス」のみに成立したのか(図表5)
①「過渡期」:産業資本主義段階から独占資本主義段階への「過渡期」
②「製造工業以外」:交通、運輸、配達、建設など
③「イギリス」のみにあらわれた
(2)実際はどうだったのか
①「過渡期」にとどまらず、様々な時期にあらわれ、現在も主要な組織形態の一つ
②「製造工業以外」どころか、自動車産業など工業部門も重要な組織的基盤
③「イギリス」だけではなく、多くの国々に見られる(ホブズボウム)
|
全文はPDF版でお読みください
(3)イギリスでも一般組合の歴史研究は遅れていて乏しかった
①おおくの産業にまたがること、おおくの組織合同によって成立したことによる難しさ
②TGWUの1922年の結成までの歴史研究が、やっと1991年に出現
③報告者(浅見)の研究(1889―1929年を対象)は1980年代半ば
4、戦後日本における一般組合への注目
(1)1950年代―合同労組
①総評による合同労組の組織化
②合同労組の諸類型―「職業別」「産業別」「一般」「中小労連」
③全国一般の結成(1960年)
④沼田稲次郎編『合同労組の研究』(1963年)
⑤「結局新しい組織形態に対応した交渉機構を作ることができず、小企業別組合を連合した『中小労連』の形にかたまっていった」(下山房雄)
(2)1970年代―特定産業を軸とした一般組合
①運輸一般(1977年)、建設一般全日自労(1980年)、化学一般(1980年)
②中林賢二郎『現代労働組合組織論』(1979年)
③トラック輸送、タクシー、生コン、清掃などの中小企業で業種別の集団交渉の展開
(3)UAゼンセンが日本最大の組合に(図表6,図表7)
①全繊同盟(1946年)、ゼンセン同盟(1974年)、UIゼンセン(2002年)、UAゼンセン(2012年)
②本田一成『チェーンストアの労働組合』(2017年)
Ⅱ TGWUの歴史―その源流・成立・変遷
1.TGWUの源流(図表8)
(1)「新組合」はいつから出てきたのか、定着したのか
(2)「新組合」の第一波―1889~90年
(3)「新組合」の第二波―1910年代
(4)大合流の模索と組織論の論争―1910年代
2.TGWUの成立(図表8)
(1)TGWUの源流一どのような労働者を組織したのか
(2)TGWUの成立過程―1920~22年
(3)成立したTGWUは、産業別組合であって、一般組合ではなかった
(4)その後の組織合同による一般組合への性格変化―「2度目」の成立
3.TGWUの成立以降の諸段階
(1)1930年代から戦時体制へ―機械工業における拡大
(2)第二次大戦後―経済危機下での産業別交渉と反共産主義
(3)1960―70年代―職場交渉の拡大と左派の進出
(4)新自由主義の下での組織と運動の大きな後退
(5)Uniteの結成(図表13)
Ⅲ TGWUの組織論―団体交渉と組織構造の変化
1.イギリスにおける団体交渉の変遷
(1)団体交渉の主要な段階の変遷
(2)TGWUの団体交渉論の特徴と問題点
2.TGWUの組織論―基本構造の意義と「改革」の問題点
(1)基本構造
(2)職場支部の重視へシフト―1960年代以降
(3)地区委員会体制の導入―「職場」・「業種」・「地域」の相互関係
3.組織拡大と組織の運営
(1)組織拡大―2つの方法
(2)組織合同政策
(3)組合員の定着化政策
(4)財政
(5)ユニオン・リーダーと組織運営(ターナー)
(6)「基幹的労働者」論―「半熟練労働者」概念の形成
[報告者の論文]
○浅見和彦「運輸・一般労働者組合の歴史と源流―合同過程と組織論を中心に―(上)・(下)」『大原社会問題研究所雑誌』1986年10月、11月。
○浅見和彦「運輸・一般労働者組合(TGWU)の組織改革-1960年代後半以降の展開と その歴史的性格」『専修経済学論集』1992年10月。
○浅見和彦「運輸・一般労組(TGWU)の組合改革・再論―その思想と組織論の含意」『専修経済学論集』2004年7月。
|